はじめからレビュー!森川ジョージ(著)『はじめの一歩』60巻 (講談社コミックス)・・・今回は書評風

はじめからレビュー!森川ジョージ(著)『はじめの一歩』60巻 (講談社コミックス

いつもはしゃいでばかりじゃないですよ・・・(何事だ)。
たまにはすこし真面目にレビューというより、書評風にいってみたいと思います。
新聞欄にある書評を想像してください。。。。わたし、どちらかというと、こちらの文章の方が書きなれてます(書きあげた時間は多分普段の半分くらいです)。そろそろこういう文章を書かねばならないのでウォーミングアップです。実際はもっと堅い文章を書いてますが。。
ここでは、ゆるめにかつときどきギャグ風にしてますのでご安心を・・・。



少年マガジンで長期連載中の『はじめの一歩』。
いじめられっ子であった主人公幕之内一歩が、偶然ボクシングに出会い、プロボクサーを目指すところから物語ははじまる。彼の所属する鴨川ボクシングジムは、鷹村守、青木勝、木村達也といった国内ランキング上位の選手が所属し、厳しい練習を課されるところで知られているが、幕之内は練習に耐え、デビュー前に宮田一郎とのスパーに勝利する。そのことで彼が後の最大のライバルとなるのだが、いまだに彼との試合は果たされず、かわりに千堂武士などのライバルが次々と登場する。
初めてこの漫画を手にした読者は、その長い連載期間にまず閉口するだろう。現在までの間に96巻も発売されているからだ。これらの長い巻数の中で、どれをベストの巻とするか、また、ベストバウトとするかは意見が分かれるところである。
だが、『はじめの一歩』ファンにとって、内容の濃い試合は例外なく愛されていると断言できよう。
なぜなら、少年誌によくあるいわゆる「必殺技」を多用し、荒唐無稽な試合が展開されるものとは異なり、この漫画では、極力必殺技を抑え、日々の地道な練習による基礎力強化こそが試合を制するものとされているからである。
幕之内は、「デンプシーロール」を駆使し、宮田は「カウンター」を武器とする。奇抜なところでは、青木の「カエルパンチ」がみられるし、また、木村に至っては、「ドラゴンフィッシュブロー」というフィニッシュ・ブローを生みだす経緯について描かれている。そうした技は、少なからずスポーツ漫画においては重視されており、この漫画でも重点が置かれていることは確かだ。だが、そうしたものをすべて否定するのが今回紹介する60巻で主役として登場する鷹村守だ。彼は、本能とボクシング理論に基づいた科学でもって、必殺技に頼らず戦うからだ。
この巻では、第二の主役と評される鷹村の世界戦タイトルマッチの模様が詳細に描かれている。
この鷹村という選手は、鴨川会長が彼に出会ったときすでに「天才の器」として、国内では類をみない最強のボクサーとされている。そんな彼が掲げる目標は、6階級制覇だ。すでに、ブライアン・ホークとの一戦で、J・ミドル級を奪取することに成功し、今回は2階級制覇のかかった2試合目の世界への挑戦だ。
天才、ではあるが、ボクシングのルールすらしらなかったこの男は、鴨川会長の指導のもと、ボクシングの基本を学び、それを破天荒極まるホークとの対戦で実戦した。今回の試合はそれとは異なり、アメリカンヒーローさながらの王者デビット・イーグルとの試合だ。鷹村の嫌がる正統派ボクシングで攻められ、活路を見いだせるか。

試合は、第4Rから。王者に確実に性格と行動パターンを読まれた鷹村のとった策は、大振りのスイングを繰り返すことで、イーグルに体をあずけ、ボディブローを打ち込み、相手にローブを背負わせるものだ。これは、かなり突拍子もない作戦に思える。だが、こうでもしないとこの王者には勝てないのだ。第5Rでも、王者を叩きのめすことに成功したが、同時に致命的なリスクを負った。眼からの出血だ。実際のボクサーにおいても、眼の怪我はひじょうに多く、またたいへん危険な怪我でもある。網膜はく離で引退する選手も後をたたない。前回、宮田が鷹村の網膜剥離を疑う場面が描かれたが、ここでその最悪な事態が懸念されている。左目の瞼がぱっくりと割れるほどの大きな傷。それが勝敗に関わることは明白だ。誰もがこの弱点を攻めるからだ。ボクシングにおいて急所を攻めるのは常套句だ。だが、王者は、そのあまりの正義感から、攻めることはなく、逆に、鷹村により彼自身が同じ傷を負うことになる。これを卑怯だとか汚いという言葉で攻めるのはお門違いだ。これこそがボクシングであり、やらなければやられる世界だからだ。

こうした情景を、ダイナミックな流線で描き、見る者を飽きさせないのは、まさしく60巻の間で培った森川氏の努力の結晶に外ならないだろう。
長年の連載のせいか、次第に人体が歪み、全体的に縦に伸長しており、デフォルメが進んでいる感は否めないが、それでもキャラクターの魅力は衰えることはない。鷹村は試合となるとボクシング誠実な男となるが、一旦リングを降りると、とんでもない「理不尽大王」となり、青木たちが犠牲となっている。森川氏は、真面目な試合運びを描くと同時に、ギャグの要素をうまく取り入れ、緩急をつけた描き方により、幅広い読者層を魅了してきたといっても過言ではない。それは連載当初から変わらないスタンスで、ある意味で『こち亀』のような安心感を与えてくれる。
また、これら魅力的なキャラクターの中でも、この巻で突出しているのは、宮田であろう。観戦している宮田の顔は、女性のみならず、男性をも魅了するほどの美しさがある。
その艶のある黒髪と、大きな眼と均整のとれた「王子様」顔はさながら獲物を狙う黒豹のように見えることもあれば、ときおりかわいらしい子猫のような表情を見せることもある。そのギャップが宮田の顕著な特徴ともいえよう。
試合を観戦する顔が横顔ばかりで単調なところが気になるが、彼の端正な顔立ちは、R543の表紙のように、やはりプロフィール(四分の三正面観、《モナリザ》に見られるような人間の顔を美しくとらえるアングル)がふさわしい。こんな顔でささやかれたら、世の女性たちは腰砕けになってしまうに違いない。
また、他のキャラクターが試合を観戦する姿も見えるが、鴨川軍団は幕之内を除いてわずか2コマ(p.20,106)。
次巻の登場を期待したい。