手塚治虫(著)『奇子(下)』(角川文庫 、1996年)

手塚治虫(著)『奇子(下)』(角川文庫 、1996年)

奇子をね・・・つづけないと。
壮絶ですよ。物語・・・。
お父さんがいよいよ危ない。もう寝たきり状態。
遺言状があるので、それを見ると・・・奇子の母親に財産を譲ると。
それは事実上、長男市朗の嫁。それを知ってるのは身内だけ。
その嫁であるすえは、狂ったこの家から離れるのに、離縁しようとしますが、激情した市朗がすえを殺します。。
すえは畑に埋められますが、洋服などが蔵に残っていて、伺朗にばれてしまいます。
一方で、奇子を独占しようとする伺朗。
けれども、奇子は蔵の外にでることを拒みます。
みんなに殺されると思いこんで。そりゃそうです。奇子はあまりに色っぽいので、町医者に襲われたり、怖い思いをしていますし、蔵の中で精神を病んでますから。
伺朗が食べ物を蔵の上からいれてあげる以外には、誰も近くによせつけず、奇子を独占状態。
そんな中、お父さんが亡くなります。
民進党員として天外家から追放されていた志子(なおこ)が、お父さんのお葬式にやってきます。
この志子の元彼が、実は仁朗に殺されていたんです(実際手はくだしてないのですが)。。事件の真相はまた後にでてきますが。
一方で、奇子は、蔵の中で奇妙な成長をしていきます。外気にもふれず、体に傷もつくことなく、純粋に育っていきます。
このときの絵がなんともなまめかしい。

そんな中、道路建設工事のため、蔵が壊されます。奇子は伺朗につづらにいれられ、難を逃れますが、そのとき、お母さん(実の母ではないですが)から、お金をくれるあしながおじさんの話をきき、衝動的に逃げ出します。
その向かう先は、お金をくれていた仁朗のところです。
仁朗はいわゆる暴力団のドンになっていました。名前も変えて。
けれども、仁朗は、暗殺者に追われ、また前に起こした殺人事件の件でまだ警察に追われていました。
当時担当だった刑事の息子(下田:げた)がしつこく彼を追い、そのうちに奇子の存在に気がつきます。
2人はあっという間にからだの関係をもち、仁朗に家まで与えられ、2人で暮らすことに。
もちろんまだこころは少女のようで、生活はそううまくいかないのですが。
一方で、仁朗のほうは長年仕事をしてきた仲間に裏切られていたことをしり、そして、GHQが彼の命を奪おうとする真相を知ろうとします。
警察と組織から逃れるため、彼は再び自分の田舎を訪れます。
ちょうど、元彼の墓参りをしている志子に会い、彼が殺されたいきさつなどについて語るのですが。
志子は兄をぶすっと針で刺しちゃいます、衝動的に。
でも、正気に戻って、医者を呼び、また彼を洞穴に隠しますが・・・兄市朗、仁朗、志子、伺朗、奇子、下田、町医者が全員洞窟に・・・。
そして、口論となり、伺朗が、爆発物に引火。洞窟が崩れおちます。
そして、まるで奇子のいた蔵の中のように、みんなが閉じ込められます。
奇妙な声をだして笑う奇子
天外家の皆に天罰が下ったかのような仕打ち。
ラストはご自分の目でご確認ください。
ここまでのあらすじ、すごく短くまとめてしまいましたが、ほんとうはものすごく深い話も盛り込まれています。

手塚先生の漫画だと、ひとりくらいはまともな人がでてくる(とくに男の子)が、今回はないっ。
唯一まともそうなのは伺朗に見えますが、奇子と関係をもってしまっている上、それを異常な行為であるとちゃんとわかっている時点で、かなりおかしい。志子がもっともかわいそうな犠牲者にも見えますが、仁朗を殺そうとしましたからね。
亡くなった長男の嫁すえもまともに見えますが、義理の父とからだの関係をもっている時点でだめです。
仁朗は最初の事件にかかわらなければ、精神的には正義のように見えます。。もちろんそうではないのですが、唯一奇子に対してだけは誠実ですね。からだの関係ももちませんし。その点だけにおいてまとも。彼は天外家の人間のように近親相姦がないのですよね。。
唯一下田だけは奇子への態度もごく普通の恋人同士としてのもので、まともに見えます。。でも視点がこの刑事ではないんですよね。。やはりあくまで中心は天外家なんでしょうね・・・。


なんとも救いのない話ですが、唯一お母さんがこの洞窟にいなかったことが救いでしょうか・・・。主眼は救いではなく、病んだ田舎の裕福な家庭の一端を忠実に描くことにあったのかもしれません。
衝撃作ではありますが、画面の分割の工夫など、手塚先生のきらっと光る個性も見えて、名作であると思います。
ただ、かなりショッキングな内容ですので、お子様はやめておいたほうがいいのではないかと。