宮下 規久朗 (著)『裏側からみた美術史』 (日経プレミアシリーズ、2010年) [新書]

宮下 規久朗 (著)『裏側からみた美術史』 (日経プレミアシリーズ、2010年) [新書]


また宮下先生のご著書をレビューしていますが。。すきなんです。。。

資生堂さんの『花椿』で、「美術史ノワール」という連載をされていらっしゃって、それをまとめた本だそうです。20話それぞれ別の話が載っています。カラー図版があるのもうれしいですね。
いくつか好きな話を抜粋します。

1話の、「天才の嫉妬」で、カラヴァッジョという17世紀の画家がいるのですが、その画家が書いたとされるバリオーネという二流画家への悪口の翻訳が秀逸です。

わたしはイタリア語わかりませんが、

あまりに見事なので、転載します。


バカオーネ/なんもわかってへんねんな/おのれの絵具はクソまみれじゃ/そんなんでゼニになるさかいボケ/おのれのカンバスゆうたらな/ふんどし作るんがええとこや/クソまみれの絵さらしといたれや/デッサン下絵ひと山で/質屋にもっていったれや/ケツふく紙にぴったりや/マオの嫁はんの○○○にでも/つっこんだったらちょうどええ/ほんだらマオもロバなみの/×××つっこむ穴ないやろ


マオというのはバリオーネの弟子だそうでして。。

この訳語のセンス・・・。

言っておきますが、著者はちゃんとした方ですよ。関西の大学の先生なので面白い方なのです。



18話の「聖人と呪い」の話も関西的なエピソードがはいっていて、面白い。

スタニスラウス・コストラという聖人の彫像と聖人伝の絵を見ながら、聖人の逸話を見ていた先生方ご一行。関西の学生さんが大阪人らしく逸話を茶化し、ベンチで休んでいると、上着に入っていたライターが発火したのだとか。火にまつわる聖人で、幼い頃から高い熱を持ち、周囲のものを熱くしていたというこの聖人の仕業ではないだろうかと(信仰のの炎で泉の水を熱湯に変えた奇跡の話があるそうです)。ライターはたまたたまかもしれませんが、この偶然と話の結び付け方がまさに奇跡。

14話の「語ることができることとできないこと」も個人的に好きな話です。

盲学校の生徒さんが美術館にこられたときに、絵画についてどうやって説明するか・・・これは美術史をやっているものにとってはひじょうに難しいことがよくわかります。。

どうやって説明されてのかはわかりませんが、納得されて帰られたというのだからすごい。

そうそう・・視覚的イメージをどうやって表現するか・・・作品記述、ディスクリプションによって伝えるのですが、なれるまではまずはこれが難しい。。絵の左側に○○があって、右にこうで・・・と、文字で説明していくのです。相手が目をつぶった状態で、絵が想像できればかなりすばらしいディスクリプションといえます。美術史をやる人間のお約束タームというのがありまして・・・「バロック的」とか「古典的」とか・・・それをどうやって一般の方に説明するか・・・。

いえ、私見ですが、その前に、さらにお仲間専門用語みたいなのがあって・・・それをまずは専門以外の人に認知→専門タームに近づける→さらに一般化という過程が・・・これオタク的発想のものと何ら変わりな・・・いいか。それはおいておこう。

いろいろと参考にしたいこともありますが、何よりも、美術の話がためになります。
文庫だからという以前に、面白くて読みやすい内容です。