グザヴィエ・バラル・イ アルテ著、吉岡 健二郎、上村 博 (翻訳) 『美術史入門』(文庫クセジュ、1999年) [新書]

グザヴィエ・バラル・イ アルテ著、吉岡 健二郎、上村 博 (翻訳) 『美術史入門』(文庫クセジュ、1999年) [新書]



いきなりブックレビューに戻ってすみません。
何度もいうようですが、このブログ、ブックレビューが本業なので。。



さて、この本、新書で、入門という名前がついていながらも、実は結構読みにくい、というか、読みごたえがあります。
これで一から学ぶのは、正直言うとかなり抵抗があるのではないかと思います。
それに、美術史=絵画史と思って読むと、意外と建築や理論のことが多く書かれています。
違う、と思われる方もいるかもしれませんが、ある意味でこれも「美術史」だと思います。
説明の仕方は正当なものかわかりませんが、たとえば、美術館である絵を見て、それについて疑問に思ったとします。
その絵が誰によって描かれたのか、題名は何なのか。それは絵画の横にあるキャプションでわかります。
では、その絵をたとえば誰かが注文したとして、それは誰なのか、どこに飾られていて、何のためにつくられたものだったのか。
そんなことを調べようと思うと、制作された時代についてしらなければならないでしょう。
飾られていた邸宅はどういう様式だったのか、注文主はどういう人だったのか。当時の経済状況は?当時の流行は?
そんなことを調べていくと、一枚の絵から限りない世界が広がっていくことになります。
それこそが絵画研究の醍醐味であるともいえますし、逆に、広大な世界を感じるほど、その絵画は魅力を備えているのだともいえるのかもしれません。
少なくともわたしはそう思っています。
ともかく、一枚の絵のことを真剣に知るためには、ものすごく膨大な知識が必要で、丹念に調べていかなければならないのです。
そうした調査のうえで、ではこの絵はどうなのか、と、それらの知識から一旦はなれてから眺めてみて、新たな視点が見いだせる、ということもあります。
なかなか深い世界ではあります。。
それはいいとして。。


さて、この小さな新書。ギリシア・ローマ時代から現代美術に至るまで広範囲な時代が網羅され、簡潔にまとめられています。
さらに、第三章が個性的というか、美術史の本にしては珍しく、機関、研究所、学会、博物館、展覧会、文化財の保存、図書館等の資料源の案内、さらには職業についてまで記されています。
さらに、付録としてついている原点による美術史入門のまとめがすばらしいです。
ヴァザーリ(近代美術史はこの人によりはじまったとされています)、ヴィンケルマン、ヘーゲルマルクス、ヴェルフリン、リーグル、パノフスキーフォション、フランカステルといった美術史家(哲学者、歴史家、思想家も含みます)たちの思想の概略にはじまり、建築家、現代美術家の思想についてもまとめられています。この付録の部分だけで十分な基礎的資料価値がありますし、これらを手掛かりに原書または翻訳を読むこともできるでしょう。さらに参考文献表もついていますので、原書に翻訳があるかどうかもすぐに調べられますね。
実に充実した内容です。


唯一、もうすこし挿絵的なものがあるとさらにうれしいのですが、そうなるともはや新書の厚さを超えてしまいます。ただでさえ、ふつうサイズの新書の倍の厚さはありそうですから。


美術史を学ぼうと思う方にはおすすめの一冊ですし、また、旅のおともにもいいのではないかと思います。時間をかけてじっくり読みたい一冊です。