千足伸行(監修)『新西洋美術史』(西村書店、1999年)

千足伸行(監修) 『新西洋美術史 (西村書店、1999年)


いや、さすがに今日一歩のレビューとか厳しいですね。体力的に。。
この本をすすめて、ある先生へのオマージュとしよう、そうしよう。


前に、高階先生の『西洋美術史』という本をご紹介したと思います。あれも名著なんですよ。
けれども、「いや、西洋美術のこと全然知らないんだけれど、ちゃんと勉強したいなと思ってて」と、結構本気で美術の勉強したい方には、こちらを強くお勧めします。
図版が豊富。説明が分かりやすい(注がところどころについている)。索引がついている。参考文献表がついてる。著者の先生が一流。
・・・予備校のパンフレットみたいになってしまいましたが。。
ただ、ボリュームがありますので、気軽に文庫みたいに持ち歩くわけにはいきませんけれどね。。


まあ、一例あげてみますと、わたしが一歩で、たまに予型論について言っておりますが、その説明が110頁の注にあります。


「予型論:タイポロジー。typology(英語)。キリスト教の聖書解釈学のひとつで、旧約聖書の人物、行為、出来事を新約聖書のキリストの生涯の予型、つまりキリストによって完全に成就された事実の予型と解釈すること」


なるほど。。キリストは、旧約で起こった出来事をなぞっているわけですね。。
完全に成就された、というのがまたポイントでもありますかね。無駄のない人生な気がします(自分が無駄だらけなだけに妙に感じ入ってしまう)



注で面白いのは、執筆されている先生によって、ポイントが違うところですね。
たとえば、象徴主義と世紀末美術の章では、「ホーフシュテッターの『象徴主義と世紀末美術』」というのが注になっています。
これは、けっこう珍しいですね。参考文献にあげることはあっても、注で本を説明するという一般美術書というものは少ないような気がします。
わたしは近代美術が専門なのですが、いまだにこれを読んで勉強になること、たくさんありまして(それじゃダメだろうと言われてしまう。。。)。
結構深いところまで書いてるんですよ、それだけ。。



たとえば、ナビ派の画家の説明の箇所。
ナビ派の画家を知ってる方ってどれくらいいらっしゃるかわかりませんが。。多分ここの説明は、かなり詳しいと思います。


1888年にポール・セリュジエという画家が、ゴーギャンにポン=タヴェンという場所で(フランスのブルターニュ地方)で、ポール・ゴーギャンという画家に絵を教わってその教えのままに描いて、パリに持って帰り、アカデミー・ジュリアンという画塾の仲間に見せたことで、ナビ派が結成されたとか。
セリュジエはその画塾のマシエ(アトリエの世話係)だったとか。
初のグループ展が1891年、ル・バルク・ド・ブートヴィル画廊で開かれたとか、詩人のカザリスがナビ派ヘブライ語預言者の意味)という名前を命名したとか。
ゴーギャンと実際接触したのは、ナビ派の画家のうちでもセリュジエだけだったとか。
エトセトラエトセトラ(呪文みたいに2回言うな)


このような細かい情報、専門書でもないのに。。
すごいと思いますよ。


ちなみに、そのパリに持って帰った絵というのは、これ。。




ポール・セリュジエ《タリスマン》、1888年オルセー美術館、パリ


この前、新国立美術館で開催されたオルセー美術館展できていました。オルセーではガラスにはいっているのに、ここではガラスにはいっていなかった。。。なんて太っ腹なんだ、オルセー美術館。。どうせなら、オルセーでもガラスに入れないでください(こんなところで要望アップ)。
何これ?抽象画みたい、と思われるかもしれません。。
すごかったんですよ、ナビ派。。

わたし、ナビ派を広めるため(個人的に永久的普及活動にいそしんでいます)に、ここで精いっぱい主張したいと思います。。
愛の森というポン=タヴェンの風景を描いたものですけれど、いろんな逸話のある絵でして。。
ちなみに、画面の半分以上が、水面に映る影、みたいなものです。
葉巻箱の裏に描いた、なんて逸話もあります。
タリスマン(護符、お守りの意味です)と当時から呼ばれてなかったとも言われております。
ちなみに、ゴーギャンの教えは以下の通りと言われています。

「あの木はどのように見えるかね。緑色?それならば緑色を、あなたのパレットの中で最も美しい緑色を塗りなさい。そして、この影は。どちらかというと青?ためらわずに(できるだけ青い)青色を塗りなさい」
(他の言い方もあります。これについて回想として後から記した画家が、二通りの言い方で伝えているからです)

この指示を忠実に守ったのが上記の絵。
確かに、色鮮やか。
こんな絵ばかりではありませんし、ナビ派の画家はそれぞれ個性的ですので、なかなかひとくくりにできませんが、いずれにしても、印象派以後に、印象派にはない、新たなる試みをしようとして生まれたゴーギャンの弟子のような画家たちです。
なかなかかわいい絵なども描いているんですよ。。こんどそんなものも紹介できればうれしいですが、レビューするほどの本はないかもしれませんけれど。

ほとんどがこの本のレビューというより、ナビ派の紹介になってしまった気もしますが、先生もそれで満足してくださるのではないだろうか、と、勝手に自己解決。。



一歩レビューはまた明日にでも。。








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